| 間近で見上げた横顔は、いつもとはあまりにも違っていたから―――すごく、驚いたのだ。 要は、いつも笑っているという印象が強すぎただけなのだけれど。 「本当、何考えてるんだかわかんないわ、利広ったら」 朱晶はそれまで歩く道すがら集めてきた小枝を、頑丘の隣の地面に置いた。頑丘はというと、食事を作るために火を焚く準備をしている。 そして当の利広は、星彩と駁を近くの木に繋ぎに行っていて不在だった。 「…俺にはお前の考えることの方が余程わけがわからんがな」 呆れたように頑丘は呟いた。家出娘が何をやらかすかと思えば、よりによって昇山だとは。おそらく、朱晶の家の者達の誰もが、彼女の残した書き置きがなければ、まさか黄海にいるなどとは微塵も考えなかったに違いない。 答えながらも作業の手を休めない頑丘に、むっとして朱晶が言い返した。 「そりゃあ、大人と子供の考え方は違うんだし、あたしは特別賢いんだから、頑丘にはわからなくても仕方ないわよね」 「…はいはい、お嬢様のおっしゃる通りでございます」 ほとほと呆れ返って、半ば自棄になりつつ頑丘は答えた。 朱晶たちが妖魔の襲来にあったのは、昨夜のことだった。黄氏の助言を聞かず襲われる人々をよそに、星彩や駁の影で息を殺して身をひそめた。 真剣な横顔、鋭い目つきで逃げる機をうかがう様子は、それまでの利広に対する印象を変えた。戦か何かだろうか、生死を分ける境を、危難を鋭く嗅ぎ分けて生き抜いてきた者の目つきだと、朱晶が気づいたのは数年後になってからだった。 「…確かに、掴みどころのない人間だとは思うけどな」 普段はにこにこと笑っている。内に抱えているものが何かはわからないが、少なくとも、病ましいことを企んでいるようには見えない。 「でしょ?」 一見、「いい人っぽいおにーさん」。けれど時折、驚くほど生真面目な表情をする。独特の考え方。 育ちの良さそうな面も見えれば、旅慣れているようでもあり。どこかの官吏の家の放蕩息子、と言われればしっくりくるかもしれないが、雛虞(すうぐ)を貰えるような、そんなたいそうな御身分には…あまり、見えないし。 あぁ、でも、と頑丘は言った。 「あいつの心底驚いた顔は、さぞかし見物だと思うぞ?」 「誰が驚いたんだって?」 いつの間に戻ってきたのやら、ひょこりと利広が顔を出す。かもしれないわね、と朱晶が呟いて―――やがて、はじけるように笑い出した。頑丘も、こらえきれず吹き出す。 「???」 (07/09/12 改稿) |