| 昔から、鉄面皮だの何だのと喧しく云われてきた。愛想が無い、他者に好意を抱かせることがない、など手厳しいことを良く云われたものだった。大して気に留めていないが、この仏頂面は幼少の頃からのもの。もしかすると、最早習い性になって久しいのかも知れない。 弱みにつけこまれぬ様、喜怒哀楽を隠すことはひどく楽なことだった。凡そ覚えている限り、それで失敗したことは皆無に近い。 表情に乏しい、もっと細君のために笑ってやらないか。悪友は五月蝿く繰り返したものだった。 そう云われても困る。心のうちは隠すものだと、此の身に染み付いてしまっているのだから。諦めろと、何度自分も繰り返したことだろう。飽きもせず。 しかし此れは如何した事だろう。自分の筋肉ならば自分の意志で如何にでも為る筈というのに、表情筋が己の意のままにならぬのだ。 脆くも崩れた仏頂面を見て、悪友が笑う気配が分かる。其れが苛立たしくて堪らないのに、どうあっても普段の仏頂面を貫けぬ。 本当に、如何した事だ。 「不思議ですね」 白い寝台の上に半身を起こして、君は囁いた。君はここ数ヶ月で、益々強さを増した様に思う。しなやかな強さは揺ぎ無く、其れが最近頓に眩しい。 「何がだ」 必死に表情を変えようとしていると、声だけが酷く不機嫌であった。取り繕う浅ましい心のうちなど見抜かれているのだろう。君は特に怯える事無く言葉を繋いだ。 「こうして新しい命を抱いている今の方が、京さんと家族になれた実感が大きいみたいです」 そんな実感、結婚した当初は殆ど無かったのに。君はそう云って優しく笑う。その表情が一瞬、夭折した母の笑顔、事故死した遥兄さんとさくらさんの笑顔、癌と闘った肇祖父さんの笑顔に重なって、そしてふっと消えていった。 「京さん」 白い布で包まれた其れを差し出して、妻は、蝶子は艶やかに笑った。 「わたしたちの新しい家族です。抱いてあげてください」 (07/11/18 推敲) |