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水の守り

壱章 祭りのまえ  ――長月・末

第四話

 十月になると、各地を守る神々のすべてが出雲へ集う。ゆえに、出雲では十月を『神在月』、それ以外の地では『神無月』と呼ぶ。
 長月の末日には、出雲へと旅立つ神々を送る「神送り」という祭りが、そして霜月の初日には、各地へと戻ってくる神々を出迎える「神迎え」という祭りが、それぞれ催される。
 これら二つの祭りは、収穫を喜び祝い、神々に感謝を捧げる時期と相まって、大々的に行われるのが常であった。
 今美魚岐ではその片方、神送りの祭りを十日後に控えていた。

 真木たちが思っていたよりも早く、大巫女は館へと帰ってきた。
 「白湯まで用意させて、随分心配をかけたねぇ。寄り合いといっても、大したことはなかったから、安心おしよ」
 にこやかに笑う彼女は、いつもの大巫女のままだったから、真木たちの間には安堵の表情が広がった。
 「それで、周水はどうなったの?」
 「おお、そうじゃった。周水はまだ衰弱しておってな、当面は里長どのの館で看病を受けることになった。里長の奥方どのは薬師の覚えもあるし、なにより当人はまだ若いときてるから、そうかからずに回復するじゃろうて」
 真木や真尋にとっては幼馴染みのひとり。そして唯一生き延びた、水の家の者。その無事が確定し、回復に太鼓判を押されたことで、にわかに空気が明るくなった。

 「此度は、水の巫の家の危機を神々が救ってくださった。十日後の祭りでは、よくよく御礼をせねばなるまいな。真尋、真木、瑞枝。しっかりと準備をして、祭りが滞りなく終えられるよう頑張っておくれ」
 「はい」
 真木は風の巫女、真尋は水の巫女、瑞枝は海の巫女として、祭事の華やかな部分を担う。真尋は海の家の出だが、代理として水の巫女の役をつとめることになっていた。
 「祭りとは神々に祈りと御礼を捧げること。明るく華やかに、士気を上げて望むべきもの。心して、明日からも舞の練習に取り組んでおくれ」
 「そうね、これで安心して、またしっかりと舞の練習ができるわね。あら、もしかして真木は、周水のことを案じてずっと心ここにあらずだったの?」
 「真尋!違うと何度言わせたら気が済むのよ。だいたい、真尋だって同じぐらい心配していたじゃないの」
 「あ、あれは周水と仲のいい竜彦が、あんまりにも落ち込んでいたからよ!」
 姦しく騒ぐ、いつもの生活が戻ってきた。そのことが嬉しくて、真木も真尋も必要以上に騒いでしまった。穏やかな瑞枝までもが朗らかな笑い声をあげた。

 そう、この生活が良いのだと真木は思う。
 誰ひとりとして欠けることなく、誰も悲しませることなく。
 「特別」などいらない。今のまま、ずっとこんな風に巫女の館で暮らしていけたらいいのに。
 祭りに向けて、少しずつ高揚する気持ち。それとはうらはらに、時が経つのを恐れる気持ち。両方が、真木のなかにはあった。

壱章・終

(07/09/30)


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